June 23, 2012

グリグリ摘出手術<その1>

「医は仁術」であるならば、患者は「忍術」をうまく使いこなせれば楽になります。火遁(かとん)、水遁(すいとん)の術とか、マキビシが扱える方ではなく、うまく自分の忍耐を扱う術です。お医者さんとアポを取るだけでなく、病院や検査機関に行っても、予約時間通りになるのは稀で、順番がまわってくるまで待たされます。しかも、(表面的には)一生懸命しているようにセカセカと動いてくれる日本人ではないので、そういう待遇が当然だと思っている人なら、オランダの病院で勤務している人たちが、とっても暢気に見えてイライラすることでしょう。(大きな声では言えませんが、日本人に限らず、「待たされてる間に死んだらどうする!」とヒステリックに叫ぶ人ほど、たいてい大したことないんですけどね。)

もちろん、健康上の不安があれば気も滅入りますが、治療関係でも結構落ち着いていろんなことを受け止められたのは、甲状腺乳頭癌の進行は遅いとされていることを知っていたこととともに、私には逆の立場から見ようとする思考のクセがついているからかも知れません。 お医者さんも、看護師さんも、どこかの実験室みたいなとこで私の血液や腫瘍を検査をしてくれた人たちも、みんな私のために一生懸命してくれてると思えたら、不要なイライラを撒き散らして、自分と周りを余計に不幸な状態にすることもなくなります。自分がどうして欲しいのかと伝えることと、自分が思うように扱ってもらえない不満を相手にぶつけることは、全く違うことですもん。

もし、異国で治療を受けられることがあれば、通訳できる人が必要でも必要でなくとも、自分が何を必要であるかをしっかりと見極め、症状と具体的な要望を、簡潔に医療従事者に伝えよう、と意識して考えてくださいね。「こちらの気持ちになって考えてくれない」というのは、日本人の錯覚であり甘えです。あなたがどう考えているのか、感じているのかなんて、他人にはまったく想像もつかないのですから、自分の意志は自分で表現していかないといけません。。。ここまで書いて、これは対オランダ人だけに言えることだはないことだなあと思いました。何となく「分かってるつもり」が多いけれど、問題が表面化した時に「分かってくれない」ではなく、「自分は理解してもらえるようにしたのか?」という考え方をすること。そうすれば、解決まで行きつくのが早くなりますよ。


さて、病院に持って行くものを揃える以外にも、
他にも手術前の準備がありました。PPO(ペーペーオー)という何それ?と言いたくなるような名前の部署に行くことです。PPO というのは、 de polikliniek pre-operatief onderzoek の略で、日本語にすれば「事前調査をする医科」といったところ。私がかかったところでは、このように独立した科がありますが、他の病院では麻酔科でするようで、いわば「麻酔が必要な手術、治療」の事前調査です。

まず、名前や生年月日に始まり、これまでの病歴、手術歴、アレルギーの有無、遺伝の可能性がある家族の病歴などから、飲酒、喫煙の習慣、体で動かしにくいところがあるかなどなどの、たくさんの項目が連なった問診票に記入させられます。残念ながら、問診票をコピーしていなかったので、どのようなものがあったかすべて覚えていませんが、両親の出身国まで記入するところがあったのが、さすが人種の坩堝アムステルダムだと思いました。個体差だけでなく、やはり人種によって明らかに突出した身体的特徴や傾向はあります。それを知ることで未然に防げるリスクがあるのであれば、利用しない手はないですもの。

受け付けでその用紙を提出した後、個室に案内されて、体重、血圧、心拍数を計測します。。。あ、ここで一つ、大事なことを思い出しました。オランダで医療機関にかかったら何億回も言わされる覚悟をしておいた方が良いのが「生年月日」です。何かの計測なり採血でもしようとすると、「XXさん、あなたの生年月日は?」と尋ねられます。この名前と生年月日を確認するという手順を踏むことによって、単純なミスが大事に繋がる
医療事故を防ぐというのは、大変シンプルかつ効果的な方法です。ただ、言われる方はまたか〜と思うし、病院でもないところで Mevrouw (メフラウ。女性への尊称)+苗字で話しかけられると、思わず生年月日を答えそうになって苦笑するという副作用はありますが(笑)。オランダでは、年月日(ねんがっぴ)はちょうど日本とは逆さまで、日月年(にちげつねん)となります。英語も問題なく通じるオランダでも、生年月日はオランダ語で言えるようになっていると、病院などではスムーズに事が運ぶことでしょう。。。


計測が済んだら机に向かい合った形で座って、「どのような手術をするのか知っていますか」、「手術前8時間に入ったら一切の食事は禁止で、2時間前から飲み物もダメです」などといった説明をしたあと、それまですっかりお医者さんだと思っていた人が「それでは Anesthesist (麻酔医)が来るまでお待ちください」と部屋を出て行きました。今のは誰やってん?と思ったら、アシスタントさんでした。この医科に何十年とかいうベテラン専任スタッフもいるので、明らかに医者の方が貫禄がない場合もあって、よく見ないと違いに気がつかないユニフォームだと、パッと見には区別がつかなかったりします(笑)。

 麻酔医の説明と言っても、私の病歴はすでにコンピュータに記録してあり、花粉症程度で何かに猛烈に反応するアレルギーもなく、普段から頭痛薬すら飲んでいないので、「これまでに、手術の麻酔とかで、問題はなかったんですね」で、簡単に済んでしまいました。(このときに、コンピューター画面がちらっと見えて、私の腫瘍の大きさが 1,6 x 0,9 mm というのが読めました。こんな小さな塊が、私の太い首の中に埋まってて、よく気がついたものです。位置が違っていたら、発見も遅かったのではと思いました。)

最後に小さな麻酔に関するパンフレットの「何時間前から絶食する」という私に関する項目と、何かあったら問い合わせが出来る電話番号というところに、目の前でマーカーで印をつけて、渡されました。
その場では思い浮かばないけど、後から聞いておけばよかったというような疑問に対応するためなんでしょうね。家に戻ってから読んだら、確かに当たり前なことばかりだけど、考えもしなかった「麻酔後にもし痛みがあった場合」とか、知っておけば何かあった時に慌てずに済みますものね。


脂肪という名の備蓄が十分あるゆえに、数日ぐらい食べなくても生命への支障はないとはいえ、普段から「食に対するパッションが高い」と食い意地が張ってることを表現している私です。ときどきやってる朝ご飯抜いたのと同じなのに、食べられないと思ったら余計に食べたくなるのが絶食(笑)。しかも、手術の前日も仕事で遅くなり、夜の10時過ぎに帰宅して、大急ぎで料理。絶食開始の直前に夕食を食べ終えました。。。病院は、こういう形の絶食を意図していたのではあるまい、とか思いつつ。

手術後に病院まで迎えにきてくれるとのことだったので、病院が(怖くて)嫌いなために、私よりも今回の手術にビビっているオッサンに「ほな、後でね〜!」と手を振って、余裕をもって徒歩で病院に向かいました。歩いたら1時間弱かかる距離ですが、体力作りも兼ねて、疲れすぎない程度にできるだけ歩くようにしていましたから。もともと、アムステルダムを散歩するのが好きというのもありますが、それに手術後は、一時的とはいえ寝たきりに近い状態になりますからね。ただでさえ硬い体へのささやかな抵抗です。


病院に到着し、デイケア部と直訳できる afdeling dagbehandeling という部署を探して、今日手術をする予定のものですと申告したら、(私の場合は男女混合の4人部屋の)自分のベッドに案内されました。
ベッド脇には、食事をする時には天板を引き出してテーブルにする、ゴマ付きのキャビネットがありました。そして、「これに着替えてください」と、渡された患者用の手術着は、ペラッペラの生地で出来た空手着を思わせるズボンと、前後と体側がスナップで開けられるようになっている幼稚園児のスモックのようなブカッとした上着のセット。私の手術は首なので、上半身は裸で、下半身は下着を付けたままで着用して良いとのことでした。(裸だから、スナップの金属が当たるとチメタイよ〜!)

着替えは男女に分かれたロッカールームのようなところで行い、その中にあるロッカーに靴と着替えを入れるようになっています。ここで上履きスリッパが活躍するわけですね。


ベッドに戻ったら、看護師さんが最終チェックにやってきました。また、名前と生年月日から始まって、手術内容の確認、アレルギーの有無など、彼女の持っている資料に間違いがないかを一通り、患者と一緒にチェックします。そして、何かあったときに連絡する人の名前と電話番号を申告。(私はうちのオッサンだけでなく、事前に了承をとって、ピピポ姉の名前とオフィスの電話番号を答えました。)

麻酔を効きやすくするためか、鎮痛剤のような薬を一錠投与され、耳栓をして横になって本を読んでいるうちに、それまでの疲れが出たのか眠ってしまっていました。「手術ですよ」と起こされてお手洗いに行き、コンタクトレンズを外した時点で、ド近眼の私は、寝ぼけてるのも手伝って、すでに幽玄の世界に突入。ベッドを押して手術室まで運んでくれる看護師さんに「心配ですか?大丈夫ですか?」と聞かれても、「大丈夫です。眠たいから、早く麻酔かけて欲しいです」とかワケの分からないことを答えながら、寝転んだままいくつも角を曲がって、近視故にはっきりと区別のつかない壁や天井を眺めておりました。

手術室では、何人もの緑色の医療従事者用の手術着を来た人が、モニターを見たり雑談しながら、いろんな機械類をいじくっていました。目が悪いから、男女の区別も声でしかつかないぐらいで、せっかく手術室に入ったのに、どんな機械かさえ判別できなかったのは残念!(え?ここは残念がるポイントではないですか。。。)


手術台の上に仰向けになり、左の手の甲に点滴の針を固定され、恐怖心ではなく睡魔のために早くして〜!と思っていたところ、私の大好きな外科医登場(というか、コンタクトレンズがないから、「ハロー、だいじょぶー?」と声をかけられるまで、それまで執刀医の彼がその場にいることを知らなかった。とほほ)。それでもついに、手術が始まるのか(やったー、寝られる!)と思ったら、ハスキーボイスなオバちゃんが呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ〜ン、紅白の大トリみたいに、みんなお待ちかね状態で部屋に入ってきました。

「誰やねん、このオバちゃん」とほとんど使い物にならない目で彼女を見上げると、「私はXXと言います。あなたは、なんのために手術しますか?」と質問されました。「はあ?ここに居る人らは、もしかしたら、何の手術するか知らんと居てるのん?」と2秒ほど質問の意図が掴めずにいたら、どうやらこのオバちゃんは、手術がちゃんと遂行されるかどうかを管理する立場にある人なのだなと理解できました。医療ミスを防ぐために、数千回(爆)生年月日を言わされたりというチェックがいくつもありましたが、手術の直前に、本人とスタッフに、今から行われる手術の内容に、本当に間違いがないかの念押しのチェックだったわけです。

今回は、名前と生年月日をオバちゃんが読み上げ、それに間違いはないですねと聞かれ、何の手術をするのかを患者(私)の口から言わせるという形の質疑応答の確認でした。まあ、間違ってなかったので、まさしく形式だけの確認なんですが、もしどこかで患者やカルテが入れ替わってたら。。。と考えたら、本当に怖いですよね。

無事に確認が済むと、部屋に居た人たちが一斉に息を吐く気配を感じました。チェックが滞りなく終わった安心感と、さあ、始まるぞという緊張感がミックスされた呼気でしょうか。それまでがシーンとしていたゆえに、急に慌ただしくなった感じの手術室の真ん中で、麻酔のマスクを口にあてがわれ、左腕から薬物が注入されていることを感じながら、オバちゃんがハスキーボイスでカウントするオランダ語の1、2、3ぐらいで、
私は意識がなくなりました。

<その2に続きます>
長文体質ですみませんです。。。

 
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woneninams at 17:23│Comments(0)TrackBack(0)
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